1969年は、腕時計製造史においてとても重要な年です。手巻きでしか存在しなかったクロノグラフ腕時計の自動巻き化を目指し、様々な時計メーカーが長年研究開発を続け、この年3つのムーブメントが誕生したのでした。
1969年に誕生した3つの自動巻クロノグラフムーブメント
ここでは、最初に誕生した自動巻クロノグラフ腕時計の紹介と、それがどのメーカーによるものだったのか、ひも解いていきたいと思います。
ゼニス:エル・プリメロ(El Primero)
「世界初」を最初に宣言した最高峰の一体型
1969年1月10日、スイスのゼニス社(および共同のモバード社)は、世界初の自動巻クロノグラフムーブメント「エル・プリメロ(エスペラント語で『第一の』の意味)」の記者会見を行いました。

エル・プリメロの最大の偉業は、ベースとなる自動巻きムーブメントの上にクロノグラフを載せる「モジュール型」ではなく、すべての部品を一つの機械として設計した「完全一体型」であった点です。さらに、毎時36,000振動(10振動/秒)という驚異的なハイビートを実現し、1/10秒の正確な計測を可能にしました。

この圧倒的な完成度と耐久性は、1980年代後半にロレックスの最高峰スポーツモデル「デイトナ(Ref.16520)」の心臓部としてカスタム採用(振動数は毎時28,800振動にデチューン)されるなど、後世にわたってその優秀性が証明されています。
ホイヤー・ブライトリング連合:キャリバー11(クロノマティック)
スイスの巨人たちが手を組んだ、国際市場の覇者
ホイヤー(現タグ・ホイヤー)、ブライトリング、ハミルトン・ビューレン、そしてモジュール専門メーカーのデュボア・デプラによる「プロジェクト99」が開発。1969年3月3日にジュネーブとニューヨークで大々的に同時発表されました。

ゼニスの発表に先を越された連合ですが、彼らには「すでに大量生産の体制が整っている」という強みがありました。ビューレンの薄型「マイクロローター」付き自動巻きの上に、デュボア・デプラのクロノグラフモジュールをドッキングする構造を採用。これにより、1969年夏の時点で、欧米の店頭に最も早く並んだ自動巻クロノグラフとなりました。
ホイヤーのアイコンである角型防水時計「モナコ」に搭載され、映画『栄光のル・マン』でスティーブ・マックイーンが着用したことで、世界的なベストセラーとなりました。リューズがケースの左側(9時位置)にあるという独特の仕様も、このモジュール構造による特徴です。
セイコー:キャリバー6139(スピードタイマー)
スイス勢の知らないところで、ひっそりと勝利していた日本メーカー
「1969年5月製品化、最も早く製品化された」という記述は、現代のグローバルな時計収集家や専門家の間でも「事実上の最初」として認められています。
スイスの2大陣営が華々しいプロモーション合戦(1月発表 vs 3月発表)を繰り広げていた当時、セイコーは一切の事前宣伝をせず、1969年5月に日本国内市場(JDM)向けに「ファイブスポーツ スピードタイマー」として販売を静かに開始しました。

のちのヴィンテージウォッチ研究において、1969年3月や4月製造を示すシリアルナンバー(ケース裏蓋の刻印)を持つ個体が発見されており、スイス勢が一般向けに時計を発売する数ヶ月前に、セイコーはすでに製品を完成させ、市場に供給していたことが判明しています。
さらに技術的にも、現代の高級クロノグラフの標準仕様である「垂直クラッチ」と「コラムホイール」を世界で初めて同時に搭載した自動巻きであり、量産性と優れたエンジニアリングを両立した傑作でした。
アメリカの宇宙飛行士ウィリアム・ポウグが1973年のスカイラブ4号ミッションに私物として持参し、宇宙空間で初めて使用された自動巻クロノグラフ(通称:セイコー・ポウグ)となったことでも有名です。
世界初の自動巻クロノグラフ腕時計を開発したメーカーは
いかがでしたでしょうか。1969年、この年になんと三つの自動巻クロノグラフ腕時計が誕生していました。発表においては「ゼニス:エル・プリメロ」が最も早く、公に知られている発売においては「ホイヤー・ブライトリング連合のキャリバー11(クロノマティック)」、シリアルでさかのぼった発売では「セイコー:キャリバー6139(スピードタイマー)」が最も早いと考えられています。
技術者の目線では「ゼニス:エル・プリメロ」
世界的な消費者の目線では「ホイヤー・ブライトリング連合のキャリバー11(クロノマティック)」
腕時計愛好家の目線では「セイコー:キャリバー6139(スピードタイマー)」
自動巻クロノグラフ腕時計を開発したメーカーは、それぞれが「世界初」を関するムーブメントを誕生させたのでした。
技術面でもそれぞれに魅力があり、現在のヴィンテージ時計市場でもこれらムーブメントを搭載した腕時計は、同ブランドの中でも一線を画す人気を誇っています。
