セイコーと独自の道を切り拓いた3人の偉人

高級時計といえばスイスのイメージが強いですが、世界の文化、冒険、そしてテクノロジーの歴史を塗り替えた偉人たちの腕元には、しばしばセイコーの革新的な名機が鎮座することもありました。

セイコーを使用した3人の偉人

ここでは、彼らがなぜセイコーを選んだのか、その背景にある「道具への哲学」を紐解いてみたいと思います。

ブルース・リー(Bruce Lee)

愛用モデル:セイコー 5スポーツクロノRef. 6139-6010
香港系アメリカ人の武道家であり映画スターとして知られるブルース・リーが、1970年代初頭にこの黒文字盤の1つ目クロノグラフを頻繁に着用していた姿は、数々のプライベート写真で確認されています。

1960年代、ブルース・リーは、アメリカで哲学を学びつつ道場経営を行っていました。1966年、アメリカの国際空手選手権大会にて、、ブルース・リーが詠春拳の演武を行ったところ、TVプロデューサーの目に止まったことをきっかけにテレビドラマに出演、その後ハリウッドに進出していくこととなります。当時は人種差別が色濃く残っていた時代。俳優として輝かしい活躍をイメージしますが、当初はその活躍に対して低いギャランティで当た事や、自身が脚本を企画し主演を熱望したドラマにおいて主演を白人俳優に変更されてしまうなどの経験があり、人種差別との戦いつづけた事でも知られています。

一方で、セイコーは強大な「スイス時計界」に挑み続け、製造量では肩を並べるほどになり、1970年、ついには機械式時計の精度をはるかに上回るクオーツ腕時計の実用・量産化に成功し、時計史に大きな影響を与えたことで知られています。

ブルース・リーと同じように、白人の世界に挑んだセイコーの腕時計を着用していたことには、意味があるように思えてなりません。

植村直己(Naomi Uemura)

愛用モデル:セイコー プロフェッショナルダイバー300M Ref. 6159-7000 / 7001
世界的な冒険家である植村直己氏が、1970年のエベレスト日本人初登頂や、その後の北極圏犬ぞり単独行などの極限環境において、セイコーの10振動(ハイビート)ダイバーズウォッチを相棒に選んでいたことは揺るぎない事実です。

1968年に誕生した「Ref.6159-7000」(およびマイナーチェンジ版の7001)は、国産初の10振動ハイビート・ダイバーズであり、ケース裏蓋が存在しない「ワンピース構造(モノコックケース)」を採用していました。これにより300m防水と抜群の気密性・堅牢性を実現し、当時のスイス製ダイバーズをも凌駕する「プロスペックツール」であったことは紛れもない事実です。

1970年、日本山岳会による日本人初のエベレスト登頂の際、隊員であった植村直己氏と松浦輝夫氏の腕には、セイコーから寄贈されたこの「6159-7000(7001)」が握られていました。極寒のエベレスト山頂(標高8,848m)という過酷な環境下でも正確に時を刻み続け、その圧倒的な実用主義と精度が冒険を支えたといわれています。

スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)

愛用モデル:セイコー シャリオ Ref. 6431-6030
1984年、ジョブズが自宅で初代Macintoshを膝に抱えて座っている、有名なポートレート(撮影:ノーマン・シーフ)。彼の左腕に巻かれていたのが、このセイコー・シャリオ(Ref. 6431-6030)です。

この時計は、白文字盤にシンプルな黒のインデックスと針だけという、バウハウス的な意匠が特徴的です。このセイコーシャリオは、ジョブズの没後の2016年、ヘリテージオークションに出品され、セイコーのクォーツ時計としては異例の42,500ドル(当時の価格で約470万円)で落札され、世界中で大きなニュースとなりました。

ジョブズは、禅や仏教、バウハウスの思想に影響を受けていたことで知られ、ファッションスタイルや少ない家具、そしてジョブズが関わったAppleのプロダクトデザインなどに同氏のミニマリズムが見て取れます。

この一見普通の セイコー シャリオ は、単にミニマルというだけでなく、ジョブズが意識をおくであろう書体や、針・外装を含めた一体感など、同時期の同社のプロダクトの意匠としては完成度が高いように思われます。ジョブズがこのセイコー シャリオを着用した理由がわかるような気がします。

「ステータス」ではなく「本質」を選んだ

3人に共通しているのは、周囲の目を気にした「富の象徴としての高級時計」ではなく、自分の生き方や哲学に合致した「最適な道具」としてセイコーを選んだという点です。

ブランド化という点ではスイス時計に遅れをとっているセイコーですが、今後の同社のさらなる飛躍のヒントがここにあるようにも思えます。